それは企業の正式な組織の外での、アフターファイブの勉強会の中であった。
実際に私がそれに関与したり、それを垣間見たのは、日産自動車、ソニー、ホンダ、自分の会社(東プレ)、そして高橋正雄先生研究会、向坂逸郎先生寺小屋、日本経済の発展の理論的道筋の分析に多大の貢献をした「経済分析班グループ」などであった。
あるリーダーのもとに集まった有志による塾のようなものであった。カンバン方式も(そのころは「同期化実験」と言っていた)、ソニーのロボット:アイボも、ソニーのウオークマンも、ホンダのオートバイの世界制覇も、こうした志をもった少人数の塾のようなグループからうまれたものである。今私は、日本の半導体産業の有志による「貴変人之会」に拘わって、日本産業の再生の道を探っている。
イギリスの産業革命は、ロイド・グループのサロンでの議論から始まったといわれている。蒸気機関を作り、炭鉱の労働者の仕事を助け、石炭を増産しようという話がそのサロンで湧き上がったのである。やはりここにも「志」があった。それが繊維産業の革命に飛び火し、イギリスからの第一次産業革命が始まった。
現在、アメリカのシリコンバレーでは、いろいろの人のネットワークのなかで有名ないくつかのレストラン、サロンルームで、常時いろいろの人が集まり議論が展開されている。今やシリコンバレーは、半導体だけではなく新しい自動車、新しいエネルギー、知識情報の構造化などの開発の話で熱くなっている。彼らには自分たちで世界を変えようという「志」がある。
志とは、私心を無くして、理想を追い求めることであると言っておこう。単に金儲けではなく、志に基づいたイノベーションが本物である。ここ20年ぐらいアメリカの企業で仕事をしているが、経営陣にはいろいろの国籍の人がいて、それを一つの方向に向けさせるのは大変骨が折れる。私が体得した説得の方法は、What is a best for Corporation?という問いかけであった。この問いかけでいろいろの考えの人を一つの方向に向かわせることが出来る。自分の利益のためではなく、自分の部門のためではなく、会社全体の利益になることを考えようという問いかけである。企業がおかしくなるのは社員が働かないためではなく、社員は一生懸命働いているが、会社全体の利益にならない働き方をしているからである。いろいろの企業を巻き込んでのプロジェクトのリードは、そのリーダーに私心がないことが成功の秘訣である。
イノベーションとは、いろいろの要素の新しい組み合わせで起こるものであるとシュンペーターは言った。これまでのやり方を否定し、それまでとは違ったやり方で行うというのがイノベーションの真髄である。こんなものができたら面白いのだがという夢のような話を現実のものにすることである。これは現状を否定することであるので、正規の組織体のなかではできないことである。これまでの200年の歴史で生まれた、志に導かれたイノベーションは、殆どと言っていいほど、既存の企業体、組織体の外からか、それまでのことを良く知らない新人、素人、部外者のような者からもたらされている。したがってイノベーションは大企業や大組織体では生まれない。
大津高東京同窓会の活動の関与してから気がついたのは、大津高同窓生は、流石に長州人としての志を持っている人が多いと感じた。この志を大きく育むことが必要であると考え、大津塾を提案した。最近はこうした「志」や理想を語り合う場所がなくなり、語りたくても語れない状況であるという。大津塾を自由に語り合える場としたい。
大津塾の理念は:
長州の志を呼び戻す。志をもって自己啓発し、これを、自分の有意義な人生の全うにも、属している企業の発展にも、組織の発展にも、郷里長門の地域の活性化にも役立てる。いずれにしても一回限りの人生であるので楽しい人生であったといえるような考えと行動を起こしてみたいものである。
議論のルールは:
(1) 他人の意見を否定しない。
(2) そこに何かの価値を見つける努力をする。
(3) あることを上から眺めてみる。あることに何かを足したり、あることから何かを引いてみる、さかさまから見てみる。
(4) 複眼の目で見る。私心を捨ててものごとを見る。これはみすずの心に通ずるものである。
「こんなものがあれば素晴らしいのだが」、「夢のような理想を言えば」という観点から議論する。モットーは、チャーリー・チャップリンの「愛と勇気と少しのお金」である。
しかし、その大津塾で、ただ面白おかしく議論するだけではつまらない。自分を含めて人を育てることを目的にして、議論を通じて具体的な活動になることを目指す。NPO的な事業や、ベンチュアービジネスに発展し、長門の地域の具体的な発展になれば、これ以上の喜びはない。
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